- 46版 上製 196ページ
- ¥1980 (本体価格 ¥1800 + 税)
- 2017年03月15日 発売
四季折々の仏教の教え
今年の桜は、どう見えましたか――
心のあり方によって変わる、風景があります。
讃岐(香川)発のみずみずしい仏教エッセイ集。四国新聞の好評連載を書籍化。
京都学派の宗教哲学者・西谷啓治のもとで学んだ清光寺住職・長谷慈弘が、私たちの人生に寄り添う「仏教の教え」をやさしい言葉で紹介します。
読書のポイント
◉1編2〜3ページで、読みやすい「生き方」エッセイです。4月から翌3月までの各章につき5編ずつを収録。移りゆく季節の中で感じる「気づき」を通して、読者とともに心のあり方を見つめる内容です。
◉覚えておきたい、ブッダ(釈尊)や古今東西の著名な思想家・文学者のフレーズを多数紹介。執らわれない心、捨てること、災難の生き方、老い、私意を離れる、ゆるし、終活……など、人生の切実なテーマについて、著者が語ります。
前書など
はじめに——異なる木を見る
「こんなに悲しい桜の花を見たことがありません」
満開の花を眺めながら、奥さんは涙を浮かべていました。最近、ご主人を亡くされたのです。
奥さんにとって、今目前に咲き誇る花は、悲しみ一色に染まった憂いの象徴なのでしょう。生前のご主人とのおしどりぶりを知る私には、花の下で楽しそうに笑う、かつての二人の姿が容易に想像できました。
心象風景ということばがあります。心のあり方によって色づけられた景色です。
心たのしいときはバラ色の世界が、心かなしいときは灰色の世界が展開します。あるときは希望に満ちた桜木がそばだちます。あるときは絶望の切なき桜雲が広がります。
どちらも同じ桜の木ですが、主体(心)のあり方の違いによって、かくも異なる木を見るのです。
仏教に「 一処四見」という喩言があります。
同じ場所・空間(一処)に、人間は水を、天人は瑠璃の池を、餓鬼は膿血を、魚は住処を見る(四見)というのです。
それぞれの主体のあり方の違いによって、描き出す世界が異なることを言います。ひるがえって、どんな世界の住人となるかは、ひとえに、心のあり方によっているのだということを説くものです。
自心のあり方次第で、地獄の猛火に焼かれる身ともなれば、仏国土でありのままに法を聞く身ともなるのです。心には、そんな可能性が秘められています。
本書『心を省みる』では、四月から翌三月までの各章につき、五篇ずつのエッセイを収録しています。春夏秋冬、移りゆく季節の中で感じるふとした「気づき」を通して、心のあり方を、見つめてみました。
版元からひとこと
2017年3月22日 四国新聞で紹介
目次
はじめに 異なる木を見る 8
四月 計らいなく他に接し、計らいなく他が接すれば、そのままで自然に適っている
心の水脈 12
釈尊誕生 14
桜花 16
一年有半 20
巣立ち 24
五月 今が始点であるからこそ、過去から学ぶことが可能となり、未来に対処することが可能となる
師僧のおもいで 28
流水灌頂 30
鳥の声 36
賢善一夜偈 40
挨拶 44
六月 人生のあらゆる寒暑が、そのままで、輝きに満たされていることの自覚が「あるがまま」
わたしは混沌 48
あるがまま 50
六窓一猿 52
出家問答 56
梅雨の頃 60
七月 「執らわれない心」と言われれば、「執らわれない心」に執らわれるのが私たちである
ジャンケン法意 64
執らわれない心 66
蟬の声に聴く 68
捨てること 70
沈黙と雷 74
八月 運命から逃げず、怯まず、たじろがない。災難に逢えば、抗うことなく災難を生きる
災難の生き方 78
私意を離れる 80
火も自ずから涼し 82
エール交換 86
心の調律 90
九月 私たちが為すべきは、「老い」に翻弄されることではなく、無相の心を実現すること
常識 94
老い 96
河を越えて 98
透明な風景 100
秋の響き 104
十月 完全無欠は美しい。その同じ美しさが、不完全で欠けたものにも看取される
分別 108
友人のおもいで 110
守・破・離 112
名残の月 114
絶対秘仏 118
十一月 一度捨ててしまうこと。凝り固まった頭をほぐし、心を重圧から解き放つ
出会い 122
風・幡・落ち葉 124
守・破・離(二) 126
木鶏 128
一休禅師忌 130
十二月 「無学」「離」の境涯は、「何もないことの中に、尽きることのないすべてがある」世界である
成道会 134
ゆるし・寛容・慈しみ 136
守・破・離(三) 138
臘八 140
蜘蛛の糸 142
一月 百花の先陣をきる開花のたよりは、やがて来る春の暖かさを予感させる
翁 146
丑年に憶う 148
雪の情景 152
卯年の初めに 156
龍 158
二月 「すべてのものは移りゆく。怠ることなく、つとめなさい」
白髪生ずれば 162
水中の水滴 166
涅槃会 168
「時空」感 172
蝶の羽ばたき 174
三月 表面に現れた行為のみならず、未だ表面に現れぬ心中の行為を等閑にしないことの大切さ
知るを知る? 178
心を省みる 180
年功序列 182
恩師との出会い 184
終活 186
あとがき 190
著者紹介
- 長谷 慈弘
- 1959年、香川県高松市に生まれる。高野山大学院修士課程修了。大谷大学院博士後期課程満期退学。現在、清光寺住職。